大学を辞めることをやめることにした話

 

 

「なんと言われようとぼくは大学を辞めます。だから来月から、ここでぼくを雇ってください」

 

頭の先からつま先まで一分の隙もなく感じている震えを必死に抑えながら、ぼくは力強くそう言った。

目の前にはぼくを鋭く睨むNPOの代表が、その横には泣きそうになりながら議事録を取る秘書が、そしてぼくの横には大泣きしている母がいた。地獄だった。



明治大学政治経済学部に入学して1週間も経たない内に、ぼくはこの大学を中退しようと決めた。あまりにも授業がお粗末過ぎたからである。

 

どの授業も、遅いテンポで要領を得ずダラダラと一方的に教授が喋り続けるのだ。活字にして要点をまとめれば10分で学べることをなぜ90分もかけて聴かなければならないのか、ぼくには全く分からなかった。

 

なぜこんなにも教授のレベルが低いのか。高校までだって授業が下手な先生はいたが、その中で1番下手だった先生よりも下手な教授がほとんどなのだ。

というかまずやる気がない。生徒の目を見ない、出欠を取らない、毎回10分近く遅れてくる(こちらは1コマあたりいくらの授業料を払っていると思っているのだ。訴えられたって文句は言えないと思う)、などなど、本当に酷い先生ばかりだった。

 

私立大学の授業の実態を知ったぼくはとてつもないショックを受け、仲良くなったあるクラスメイトに不満をぶつけた。

 

「なんでどの授業もこんなに酷いわけ!? 教授のレベル低すぎるだろ!」

 

すると、その友達は涼しい顔でこう言ったのである。

 

「しょうがないよ。教授の主な仕事は研究することであって、教えるのは専門じゃないんだから」

 

意味が分からなかった。なぜそんな人が教鞭を執れる仕組みに日本の大学がなっているのか、そしてなぜその事をこいつは平然と受け入れられているのか。

 

教育は、人と社会を劇的に良くする素晴らしいものである。

高校までの授業で教えられる内容が実生活にほとんど役に立たないものであったのは、大学受験という制度がある以上、仕方がないと思っていた。

でも受験が終わって大学に入った後は、実生活に役に立つ勉強が思い切りできるのだと思っていた。日本教育の真価は大学にこそあるのだと。

 

そう信じて一浪してまで頑張って受験勉強をしたのに、やっと辿り着いた桃源郷がこれかよと思った。ふざけんなと。

国の偉い人たちは、大学がこのクソ低いレベルの授業を垂れ流してるせいでどれだけの損失が生まれているか分かっているのか。「知らない」がためにこの先不幸な目に遭う人がごまんと出るんだぞ。これから国や世界を背負って立つ若く自由な力を無駄にしているんだぞ。

 

そしてそんな仕組みを仕方ないと受け入れているお前はなんなんだ。特別に意識高くなれとは言わないけど、流石にこの惨状には疑問と不満を持てよ。バカなのか。

だが、その友達が特別にバカなわけではなかった。ぼくはそれから同じことを何人ものクラスメイトに言ってみたが、みんな同じ反応だったのだ。全員バカだと思った。

 

そういうわけで、ぼくは入学したその週にはもう中退する決意を固めたのである。

 

さて、この記事を読んでいるあなたはきっと今、こう思っただろう。

 

「確かに大学側にも問題があるのかもしれないけどさ、だからって辞めるのは違うんじゃないの? どんなに質の低い授業からだって学べることはあるでしょ。自分が今いる環境から何か1つでも学び取ろうとする姿勢が大事なんだって。環境が悪いとか言って逃げるような人は、どんなに優れた環境に行ったって何も学べないよ。一生不満言って逃げ続けるのがオチだよ」

 

もう耳タコになった意見だ。色々な人からマジで20回ぐらい聞いたが、この考えは間違っているとぼくは思う。

 

そりゃ、質の低い授業からだって学べることはあるだろう。授業に限らず体験には、それがどんなものであれ学びになる部分は必ずある。

だが、だからと言ってその体験をし続けるのが最善な訳がない。なぜなら、同じ時間を使って別の体験をすればもっと大きな学びが得られるからだ。

 

仮に、ある質の低い授業を90分受けて得られる学びが10だとしよう。だが、その90分を使って例えば本を読めば50とか100とかの学びが得られるではないか。大学なんて基本的に放任主義で内職し放題なのだから。なぜそういう発想にならないのか、ぼくには本当に分からない。

 

質の低い授業から学べることがあるのは分かっていたし、質が低くない授業も少しはあった。だがどんな授業も、自分で学ぶスピードには到底敵わないと思った。

ぼくは勉強するために大学に入ったのだ。世界平和を実現する男がこんなところで4年間も時間を浪費するわけにはいかない。だからぼくは、逃げたいという気持ちからではなく合理的な考えから、大学を中退することに決めた。




とは言え、流石にすぐ辞めるわけにはいかない。ぼくの夢までへの道は無数にあるが、どの道を選ぶか決まりもしないのに辞めたって途方に暮れるだけだからだ。そういう冷静さはあった。

 

最善の道を選ぶために本を読んだりインカレに入ったり色々した結果、ひょんなことからぼくはとある障害者就労支援をするNPO法人インターンシップをすることになったのだが、インターンシップを始めてすぐ「最初の道はここだ!」と確信した。そのNPO法人の代表に惚れたからである。

 

30歳の若さで強力なリーダーシップを発揮し、優しくも厳しく、火傷しそうなほど熱いその男の元で修行したいと思った。数年間そうやって力をつけ、何かしらの起業をする。それが最善最速の道だと考えたのだ。




そういうわけで、大学2年の3月12日に冒頭のシーンになった。定期面談という名目だったが、ぼくの大学中退について話し合う場だった。

 

その日までに代表と約10人の社員全員と母から散々反対されていたにも関わらず、ぼくはこの場で代表も母も説得し、明日にでも大学を中退し、4月からこの法人に雇ってもらおうと本気で考えていた。

思想的にはともかく契約的には、柔軟な法人とは言え来月からいきなり雇用してもらうなんて無理に決まっているのに、なんとかなるだろうという無茶苦茶な考えをしていた。

 

母が泣きながら言った。

 

「あんたには障害があって、父親が外国人で、母子家庭でっていう3つの社会的な不安要素があるの。その上『明治大学卒業』っていう経歴まで無くなったらこれから先絶対に苦労するの」

 

中退してこのNPO法人に就職したいと打ち明けた1ヶ月前にも言われたことだった。それから今日まで、ほとんど口をきかずに過ごしてきた。

 

「だからさ、ぼくは起業するから学歴とか全然関係ないんだって。もし起業できなくて結局どこかに就職しなきゃいけなくなっても、ぼくは中退した理由をちゃんと合理的に説明できる自信があるし」

 

「あんたはそう思ってても、社会は実際にそうはなってないの!」

 

怒鳴る母をチラリと見てから、代表が口を開いた。

 

「大学を続けた方がいい理由は色々伝えてきたけど、全部もういいよ。今日まで俺にあんだけ詰められても負けないってことは、中退しても逃げグセはつかないだろうしね。

でも、お母さんが反対してるなら絶対に駄目だよ。大学は続けなさい。大学に行きながら同時にここで修行すればいいじゃん。卒業したら正式に雇うって約束するから。なんでそれじゃ駄目なの?」

 

「ですから、大学に拘束される時間が無駄なんです!」

 

ぼくは即座に言い返した。

 

「ぼくは将来多くの人を助けるんです。仮に1年間に1万人を助けられるようになるとして、2年間遠回りしたら2万人が不幸になる! だから、母は大好きだしできれば大切にしたいけど、たった1人の母のために2万人を犠牲にするわけにはいかないんです!」

 

常人にはおよそ理解できない思考だろうが、当時のぼくは本気でそう考えていた。だから焦っていたのである。

 

また母が泣きながら言った。

 

「お母さんにとってはそんな存在するかも分からない2万人より、あんたが大切なの! 何十年後かにあんたの言うことが本当だったって分かったらお母さんは土下座して謝るわよ。だから今はお母さんを恨んでもいいから、大学だけは卒業しなさい」

 

流石に、もう無理だと思った。どう考えてもこの場で母と代表を説得できるとは思えない。

中退自体を諦めたわけではなかったが、少なくともこの場は引くべきだと思い、ぼくはしぶしぶ口を閉じた。面談は終わった。



帰り道は本当に最悪の気分だった。

なんとか気分を紛らわせようと、ぼくは自分にとって1番のストレス解消になる場所に行った。漫画喫茶である。


ぼくは壁にぶち当たった時、しばしば物語に救いを求める。物語に出てくる生き様やセリフなどによって、その時の悩みがパッと解決することがよくあるからだ。

どこかに今のぼくを救う物語があるだろうか……。
そう思いながら本棚を眺めていると、あるタイトルに目が留まった。

 

罪と罰』である。

 

言わずと知れた、人の業を書いたドストエフスキーの大作。

原作の小説を読んだことはなかったが、『マンガで分かる』シリーズで非常にコンパクトにまとめられた漫画を読んだことならあった。

 

その内容はぼんやりとしか思い出せなかったが、なんとなくこの漫画を読んでみることに決めた。理屈では説明できない直感が働いたのかもしれない。

 

昔のロシアではなく現代の日本バージョンにアレンジしたその漫画は、ぼくが読んだ『マンガで分かる』シリーズよりもずっと丹念に書かれており、あまりのリアルさにあっという間に没入した。

 

この漫画の凄いところは、とにかく主人公のキャラクターにある。

彼は平凡に暮らしている大学生なのだが、「自分は本当はとてつもない能力と可能性を持った選ばれた人間なんだ」と強烈に信じており、そのことを示すために売春を斡旋している極悪女子高生を殺害する。

しかもそれだけでは済まず、その現場を目撃した罪のない女子高生をも殺してしまうのだが、なんと一切悪びれないのだ。

 

「悪を成敗した自分は間違ってない。罪のない女子高生を殺してしまったのも仕方がなかった。だってそうしなければぼくは確実に捕まっていたんだから。これから誰よりも偉くなり世の中を良くしていく自分が捕まってしまうのは社会の損失じゃないか!」

 

ぼくはこの男を、最低な人間だと思った。罪のない人を殺しておいて悪びれないなんてどうかしている。気味が悪いとさえ思った。

しかし、漫画を読みながら、ふと気がついたのである。

 

 

ぼくもこの男と同じじゃないか、と。

 

 

もちろん、ぼくは殺人なんて絶対にしない。だが違うのはそこだけで、「自分は社会を良くする有能な人間なんだから自分の未来の為なら誰かを傷つけてもいい」と考えている部分は全く一緒ではないか。

 

いや、そう考えてもいい場合があるとは思う。例えば会社を辞める時なんかはそう考えなければ無理だろう。

だがそういう場合でも、自分がかける迷惑や他人の痛みに謙虚に心を痛めながらそうするのと、ほとんど心を痛めずに傲慢にそうするのとでは全く違うのではないか。行動は同じでも、両者のその後の人生は天と地ほどに違ってくるのではないか。

 

漫画喫茶の個室で、ぼくは自分の心を見つめ返してみた。最近のぼくには、傲慢さがなかっただろうか?

 

 

大いに、あったと思った。

 

 

大学の授業に疑問を持たない学生を全員等しくバカだと決めつけ、その人たちにもその人たちなりの考えや葛藤があるかもしれないと想像しようとしていなかった。

 

毎日必死に働いているNPO法人の代表を尊敬しつつも、30歳にもなってこんな小さな組織でしか働けないのかと見下していた。

 

母がどれだけの想いでこれまでぼくを育ててくれたのか分かろうとしていなかった。母がぼくの将来を心配する気持ちには、汲む価値がないと思っていた。

 

あまりの自分の愚かさと恐ろしさに、気がついたら涙が出ていた。

天井を見上げながら、ぼくは思った。

 

 

このままお母さんを泣かせて大学を中退したら、ぼくはろくな大人にならないなぁ……。

 

 

何十年か先、もし本当に毎年のように何万人、何十万人救えるようになったとしても、その時のぼくの心はひどく曲がっているだろうなぁ。その曲がりを直すことはたぶん二度とできないだろうし、そんなねじ曲がった人が救える人の数は、結局限られてしまうだろうなぁ……。

 

今度は『罪と罰』の主人公を見つめながら、思った。

 

 

大学は続けよう。

 

 

学生のうちに色々勉強しておいた方がいいとか、お金が絡まない経験をたくさん積んでおいた方がいいとか、色々な人に色々なことを言われたけど、そんなこと全部関係ない。大学に通い続けるのは効率が悪いという考えも変わらない。

 

今あるぼくの傲慢さを直すため、そしてぼくの将来を心配する母の気持ちを汲むために、大学は卒業しよう。

 

漫画喫茶の個室でぼくは一人、十分ほど泣き続けた。

 

 

 

家に帰ると、お母さんがぼくに背を向けて台所に立っていた。

ぼくは深呼吸をしてから、「お母さん」と明るく言った。

 

「やめることにしたよ。大学を辞めるのは」

 

お母さんは振り返り、パッと笑顔になる……かと思いきや、憤怒の表情になり大声で怒鳴った。

 

 

「紛らわしい言い方をするのはやめなさい!」

 

 

ドラマみたいな言い方が通じるのは、ドラマの中だけらしいと学んだ。

 

 

 

その後ぼくは、イエスマンキャンペーンをやってみたり学生起業を目指してみたり、卒業まで色々な経験をした。

NPO法人インターンシップは試しに1回休止してみると、急に視野が広がり、やっぱりあのNPO法人に就職するのはぼくの夢への最善の道ではないと思い直した。もちろん素晴らしい会社だったけど、やはり非常に狭い視野に囚われていたなと思う。

 

人間関係も目に見えて変わった。母との関係が元通りになったのはもちろん、所属していたインカレや高校時代から付き合い続けている友達との関係が急に劇的に改善したのである。

 

それまではぼくが尖りすぎて問題を起こしまくり、かなり嫌われていたのだが、大学を続けることに決めた途端に急にみんなから好かれるようになった。自然と丸くなったんだと思う。

 

そして肝心のぼくの夢だが、道を順調に進んでいるかというと全くそうではない。

学生起業は諦め、学生最後の挑戦だった小説は失敗に終わり、卒業してから一流企業に勤めたものの4ヶ月で辞め、インフルエンサーを目指しているものの2年間結果が出せていないという散々な道を歩いている。

 

だけど、大学で得た経験も大学卒業後の経験も全て必要なものだったと思っている。これは負け惜しみでもこじつけでもなく本当に、全ての経験が糧になっていると実感しているからだ。あの時大学を辞めていたら、ありとあらゆる貴重な経験を得る機会を失っていただろう。

 

大学1年生の時、高校時代の恩師にこう言われたことがある。

 

「人生は長い。焦るな」

 

その時は全くピンと来なかったが、今は、この言葉の意味がよく分かる。

 

未来との別れ

 

「私たち……もう終わりなの?」

 

……うん」

 

 泣きながら尋ねる未来の顔を直視できず、うつむきながら答えた。重い沈黙の時が流れる。

 

「失礼致します」

 

 いい具合に店員が静寂を破ってくれた。先ほど頼んだショコラケーキをそっとテーブルの上に置きながら、チラリと未来の顔を見る。渋谷のカフェにいると、やはりある程度の注目は免れなかった。

 

 ぼくはショコラケーキを見つめながら、ふーっと息を吐いた。

 

「やっぱり……ぼくたち、もう無理だよ。続かないと思う」

 

「なんで?」

 

「未来のこだわりには、もうついていけないんだ」

 

 意を決して言うと、未来はバツの悪そうな顔をした。「それくらい」と言いかけるので、思わず制する。

 

「それくらいって程度じゃないだろ。家では服と部屋着とパジャマを分けなきゃいけない、お風呂場は順番通りに水はけしなきゃいけない、ベッドに入る時は足の裏をウェットティッシュで拭かなきゃいけない……そんな異常なこだわりをパートナーにまで押し付けて、守らないといちいち怒るんだもん。悪いけど、もう限界だよ」

 

 未来は眉間に皺をよせ、訴える様な目つきをした。

 

「でも、付き合うとき、そんな私でもいいかって聞いたら、『いいよ』って言ってくれたじゃない」

 

「そりゃ、付き合う時はね。最初は愛があったからぼくもそれに全然合わせられたよ。でも3ヶ月も付き合ってそれが日常になってくると、いくらなんでもキツイって」

 

 未来は何か言い返そうとして口を開き、結局閉じてしまった。再び静寂が訪れる。

 

 気まずさに絶え切れず少しだけ横を向いたら、隣りのテーブルにいる人がこちらを向いているのに気がついた。制服を着た男子高校生2人組だ。「あれひょっとして……」「だよな」と興奮してこっちを見ている。一睨みすると、2人ともすぐに首の向きを元に戻した。「誰だよ」と微かに聞こえた気がした。

 

「あと一つ聞いていい?」未来が暗い声で言う。

 

「何?」

 

「どうして抱いてくれないの?」

 

 思わずむせそうになった。普通の声量だったけど、耳を澄ましているだろう隣りの男子高校生にはたぶん聞こえている。

 

「最近、私がいくら頼んでも全然抱いてくれないじゃない。疲れたとか明日早いとか言い訳ばっかりして。抱くどころかキスもしてくれないし。私じゃ不満?」

 

「そ……それは……かみ…………たから」

 

 我ながら情けないぐらい、声がかすれた。

 

「何? 聞こえない」

 

「だから……神本竜之介と付き合ってたって言ったから!」

 

 思い切って言ってしまった。ぼくが未来と続けられない、本当の理由。

 

「え?」未来が目をぱちくりさせる。

 

「それが……何?」

 

2週間くらい前に、実は昔神本竜之介と付き合ってたって言っただろ……それが嫌なんだよ……

 

「そ……それの何が問題なの? もうそれは終わったって言ったでしょ? 彼が佐藤ひなこなんていう巨乳女に浮気したからって! 信じてないわけ?」

 

「信じてるよ。でもぼくは……一度も異性と付き合ってない子と付き合いたかったんだよ!」

 

「はあ?」

 

 怒っているのではなく、単純に理解できない「はあ?」だった。未来の鋭い眼光は怖かったが、一度言ってしまえば、あとは言わないでいる方が辛かった。

 

「最初の彼女は、ぼくが初めての彼氏になる人にするって、ずっと前から決めてたんだよ。それなのに、実は神本竜之介と……イチャイチャしてたなんて!」

 

「何よ! 私の体が汚れてるって言うの?」

 

「違うよ。でも、この綺麗な体を神木竜之介が触ったと思うと、色々考えちゃうんだよ。

 

それに、もしかしたら他の男ともそういう関係になったんじゃないかとも考えちゃって……。『13才の母』で三沢春馬と恋人役やって惚れたりしなかったの? 探偵学園Rで共演した山崎涼介なんて、コンサートに行ったんだろ? 好きっていう証拠じゃないか!」

 

「それは『探偵学園R』で共演して友達になったからよ!」

 

「そうやって言い訳ばっかりして信じられるわけないだろ! これからどう付き合って行けばいいんだよ。ねえ教えてよ……未来は一体誰が好きなの? 三沢春馬? 山崎涼介? 神本竜之介?」

 

「あなたよ!!!」

 

 未来が立ち上がり絶叫した。店中の客がこちらを振り向く。

 

「神本竜之介が何よ! 三沢春馬が何よ! 山崎涼介が何よ! みんな顔だけじゃない!私は崇史が好きなのよ!!」

 

 ついに大声で泣き出す。ぼくは口をポカーンと空け、ただ未来の顔を見つめていた。

 

店内中の客が口々につぶやくのが聞こえる。

 

「何?」「あの子、もしかして……」「何で泣いてるの?」「あの男彼氏?」「いや、あの子の彼氏にしてはダサすぎでしょ」「じゃあタカシって誰?」「さあ」

 

 呆気にとられたまま、ぼくは声を絞り出した。

 

「み、未来……ごめん、ぼく──」

 

「もういいわよ!そんなに私のことが信用できないんでしょ!」

 

「違うよ。ぼくは未来のことが好きだから、ただ嫉妬しちゃって……

 

「今更そんなこと言ったって遅いわよ! そんなに処女性が大事なら、男性と一度も付き合ったことない人にずっとこだわってればいいじゃない! だいたい23歳にもなって彼女の1人もできたことないってのがおかしいのよ! そんなつまんないことを無駄に気にするのも、あなたが子供だからでしょ? ずっと探してれば? あなただけのお姫様を、50歳になってもずっとね!!」

 

 いくらなんでも言い過ぎだ。ここまで言われたらぼくも黙っているわけにはいかなかった。勢い良く立ち上がる。

 

「そんなこと言ったら未来だって同じだろ! うどんは3本ずつとらなきゃだめ? 服は畳んでから着る? そんな異常なこだわりに全部合わせてくれる人なんて日本中探しても誰もいないよ! だから神本だって浮気したんじゃないの? やっぱり神本の気持ちが分かるわ!!」

 

「じゃあなんで私のことを好きになったのよ!!」

 

「綺麗だからだよ!!」

 

 え、と未来が不意をつかれたような顔になる。え、とぼくも困惑した。感情とは裏腹に、気づけば口をついて出てしまっていた。でも言った途端、未来に対する想いが溢れてきた。

 

「顔はもちろんだけど……魂が綺麗だからだよ! 芸能界でどれだけチヤホヤされても謙虚でまっすぐで、努力家な姿に惚れたからだよ!」

 

 未来が口をパクパクする。顔が真っ赤だ。

 

「もっと言おうか? 正義感が強い所! ツナを美味しそうに食べる横顔! なるべく正直であろうとするところ! 手作りの料理が美味しいところ! 子供のような寝顔! どれも大好きだよ!!」

 

 絶叫だった。ハアハアと肩で息をする。もはや店内中の客全員が一言もしゃべらずぼくたちを見ていたけど、全く気にならなかった。

 

「こっちこそ聞かせてもらうけど、そんなに言うんだったら、未来はなんでぼくのこと好きになったわけ?」

 

「それじゃ、言わせてもらうわよ」涙をぬぐって、未来は目を見開いた。

 

「全部よ!! 優しいところも、真っ直ぐな目も、正義感が人並み外れて強いところも、子供っぽいところも、嘘が下手なところも、キスがうまいところも、全部大好きよ!」

 

 未来も肩で息をし、2人はしばらく黙って見つめ合った。そして、2人同時にえーんと声をあげて泣き始め、抱き合った。

 

「好きだ」

 

「私もよ」

 

 未来の髪が鼻に当たる。シャンプーの香りがした。いつまでも、こうして抱きしめていたかった。それでも、言わなければならない。

 

「でも」とぼくが言うと、

 

「もう」と未来が応えた。

 

「続けられない」

 

「うん」

 

「こうなる運命だったんだ」

 

「そうね」

 

「お互いの幸せのために」

 

「別れましょう」

 

 合図もせず、2人は同時に手を放した。再び見つめ合う。ありったけの力を振り絞って、ぼくは笑った。

 

「未来はさ、名前の通り、未来に向かって生きなきゃ駄目だ。こんな過去を引きずるような男より、もっと良い男と付き合うべきだよ」

 

「崇史も、こんなわがままな女よりもっと素敵な人が見つかるよ」

 

「ありがとう。じゃあ、お互いの未来のために」

 

「ええ」

 

 最後は、2人声を揃えて言った。

 

「さよなら」

 

 2人同時に歩き出そうとしたとき、割れんばかりの爆発音が響いた。え、と思い周りを見ると、それは店内中の客の拍手だった。

 

「素晴らしい! 2人は素晴らしいです!」

 

「いいものを見せてくれてありがとうございました!」

 

隣りの席にいた男子高校生2人が叫ぶ。顔を真っ赤にして号泣していた。他にもあちこちから「素敵ね!」「最高だぜ!」などと聞こえてくる。

 

「みなさん……ありがとう!」

 

 未来が言い、お辞儀した。ぼくも合わせてお辞儀した後、男子高校生に向き直った。

 

「君たち……彼女はいる?」

 

「います」「ぼくはいません」と、2人が口々に答える。

 

「そうか」ぼくはふっと笑ってから、いないと答えた方を指差した。

 

「彼女を作るコツは、焦って下手に彼女を作ろうとしないことだ。まずは男を磨け。そしたら、自然と女性はついてくる」

 

「はい!」

 

「それから君」もう一人の方を指差す。

 

「彼女に優しくしてやれよ? ぼくみたいに、泣かせないようにな」

 

「はい!」

 

 2人とも満面の笑みでうなずいた。

 

「じゃ、行こうか、未来」

 

「ええ」

 

 2人が歩き出すと、拍手がいっそう大きくなった。大勢の人々の笑顔と泣き顔に囲まれながら、ぼくたちは店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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無粋であることは承知していますが、必要な事だと思うので注釈を添えます。

 

この話でぼくは女性の処女性に強いこだわりを持っていることを彼女に打ち明けていますが、これは本来は厳に慎むべき行為です。

 

何故ならそのことによって、「性体験のある私は汚れているんだ」と、その女性を傷つけ苦しませてしまう可能性があるからです。

 

もちろん、性体験があるからといってその女性が汚れているなんていうことは一切ありません。

 

この話のぼくのように考える男は確かに一定数いますが、それは男の勝手な妄想に過ぎず、女性がその考えや言葉を真に受け傷つき悩む必要はありません。

 

数えられないほど多くの性体験を積んでいようと、自分は性体験のない人と変わらない綺麗な身体と高潔な魂を持っているのだと胸を張ってください。

 

 

ただ一方で、もしこの話を読んで処女性を気にする男性の心理に強い嫌悪感を持った方がいたとしても、それを人でなしのように蔑視し公然と非難することは控えていただけると嬉しいです。

 

許しがたいエゴだとしても、一定数の男はやはりどうしても、女性の処女性を気にしてしまうのです。それは例えば、容姿が綺麗でない人のことを異性として好きになれない人がいるのと同じような話です。

 

容姿が綺麗な人を愛せない心理と同じように、処女性を気にしてしまう心理は、「それを言われて傷つく人の前で言うこと」が問題なのであり、「そういう心理を持っていること」自体は大きな問題ではありません。「思うこと」は自由なのです。

 

この話では、彼女に「どうして抱いてくれないの?」と強く詰められたので「正直に言うのがベストだ」と判断しぼくはあの告白をしました。その判断は正しかったのか、あるいは嘘の理由でごまかした方が良かったのか、それは誰にも分かりません。

 

 

以上、何も書かなければ多くの女性を傷つけ怒らせてしまうと思ったので、野暮ではあると思いましたが注釈を書きました。

 

え、ぼくは今はもう処女性にこだわっていないのかって?

 

 

それは、ご想像にお任せします。

 

【相談】転職したいと思ってる自己中な自分が情けない→一番大切なのは自分の人生だよ。

 
 
隼人(仮名)という同い年の男友達から、ある日こんなことをLINEで言われました。
 
 
ー今の会社が合わないしスキルアップをしたいから転職したいんだけど、今の会社の人たちには本当にお世話になったから辞めるのがすごく申し訳ないんだよね。申し訳なさすぎていつまでも上司に切り出せなくて、最近マジで情緒不安定になってる……。こんな自己中な理由で辞めようとしてる自分が情けないよ……。
 
 
「もしかしたら少しその気になるかもしれないと思うことちょっと長く言っても大丈夫?」と聞いて許可を得てから送った長文を公開します!
 
 
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会社を辞めるって言った時のみんなの顔とか、辞めた後みんなにかかる迷惑とか想像するのってめちゃくちゃキツいよね……。ぼくも新卒で入った会社を4ヶ月で辞めた経験があるから、気持ちはけっこう分かると思う。
 
ただ今の話を聞いて、ぼくは隼人のこと、自己中どころかむしろ立派な人だと思ったよ。身の回りの人を無下にできずに自分の行きたい道に進むのを躊躇しているその人間性が、素敵だと思った。
 
で、辞めてもいいかどうかだけど、普通に辞めていいんじゃない?
 
「自分のために他人に迷惑をかけること」ってすごく悪いことだとされてる風潮があるけど、ぼくはそれってそこまで悪いことじゃないと思うんだよね。
 
だって、一番大切なのは自分の人生じゃん。

そりゃ人に迷惑をかけないに越したことはないけど、「自分の幸せ」と「他人に迷惑をかけないこと」を天秤にかけた時に前者を取ることは悪じゃないでしょ。もちろん無罪じゃないけど、「しょうがない」で済む話だよ。
 
 
ただ1つすごく大事だと思ってることがあって、それは「ちゃんと『申し訳ない』って思うこと」。
 
同じ「人に迷惑をかける」行為でも、心から「申し訳ない」って思いながらするのと、「他人への迷惑なんて知らねえよ」って思いながらするのとでは全然違うと思うんだよね。後者の人はどんどん曲がっていって、結局ロクな人間にならないと思う。
 
 
で、この観点から言えば、隼人は大丈夫だと思うんだよね。
隼人が人間できてないクソ野郎だったらぼくもどうかなと思うけどさ、これまで何度も伝えている通り、隼人は十分すぎるほど素晴らしい人格を持ってるじゃん。
 
 
今の会社を辞めたいのは自己中だからじゃない。人に迷惑をかけることを十分に理解した上で、それでもどうしても今のままじゃ嫌だと思うからだよ。
 
「人に迷惑をかけること」と「自己中じゃないこと」は両立するとぼくは思う。
 
だからそんなに自分を卑下せずに、今の会社は普通に辞めたらいいんじゃないかな?
 
 
もっと簡単に言おうと思ったのに予想以上に長くなってごめん!
  
後ろめたい気持ちを持ちながらも毅然として、自分にとって最も良い道を選べば良いと思うよ!
 

「進学してる時点で婚期遅らせてるよね」と言われて幸せの手に入れ方が分からなくなりました→あなたは堅実な道を選んだだけなので焦らず自分の道を行きましょう。

 

質問箱からの相談です!

 

ー来年から社会人になる、21歳の大学生です。

私は「大卒」の肩書きのために進学をしたのですが、同い年の子から「進学してる時点で婚期遅らせてるよね」と言われて苛立っています。

私が選んだのは医療系の道なのでその子よりもお金稼ぐのにって思いますが、その子は「大卒」という肩書きがなくても結婚して子供もできて容姿は良くてマイホームもあるという良いことづくめです。

嫌々進学した私はどのように幸せを手に入れればいいのか分からなくなってしまいました。レンタルさんはこの子の思考回路どう思いますか?

 

 

以下、ぼくからの回答です!

 

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長文でのご相談ありがとうございます。

自分がした苦労をすっ飛ばしている人が自分より幸せそうに見えると、どうしようもないやるせなさを感じますよね。

 

お話を聞く限りでは、その子の思考回路は「論理的だけど自分本位」だなぁと思いました。

 

自分の幸せを掴むために何が必要で何が不要かを分かっていたから、その子は大学に行かなかったのでしょう。その判断ができた論理力はすごいですが、だからと言って他の人の生き方にケチをつけていいわけではありません。もう少し他者への心配りが必要だと思います。

 

さて、訊かれているのは「この子の思考回路どう思いますか」だけですが、「嫌々進学した私はどのように幸せを手に入れればいいのか分からない」ともおっしゃっているので、この悩みに対するぼくなりのアドバイスもお伝えしたいと思います。

 

以下、すごく長くなりますのでお時間のある時に読んでみてください。

 

 

お金持ちになることや立派な家を持つこと、結婚することや子供を作ることを目指す人は、お金持ちの白馬の王子さまが勝手にやってくるような特別な人でない限り、「努力して望みを勝ち取っていく」生き方をすることになります。

 

ここでポイントになるのは、

「その『努力するもの』は人によって違う」

ということです。

 

人のステータスにはいくつも種類があります。
頭がいい、お金持ち、人格が優れている、コミュニケーション力が高い、容姿がいい……。

それらの中で質問者さんは「(大卒という)立派な肩書きがある」「お金持ち」というステータスを伸ばすことを選んだということなのです。

では、「その子」はどうだったのでしょう。
同い年なのにマイホームを建てたということは、自分でお金を稼いだのではなく、お金持ちの男性と結婚したのでしょうか。

 

もしそうであれば、その子は「女性として魅力がある」というステータスが極めて高かったのです。

その子はそのことを自覚していたから、「勉強ができる」とか「大卒」とかいうステータスを伸ばすことにコストをかけるよりも、自分の長所である「女性として魅力がある」というステータスを伸ばすことにコストをかける方が、自分の幸せには近道だと考えたのだと思います。

 

つまり、質問者さんからはその子が楽をしているように見えるかもしれませんが、その子はその子できっと、「進学する」ということ以外の努力をしてきたのです。

「容姿」は元から良かったのかもしれませんが、他の、たとえば「コミュニケーション力が高い」とか「気配りができる」とかいうステータスは努力で高めたのかもしれません。

そういう、「幸せを掴むために彼女がした努力」を探してみるといいと思います。それが見つかれば、少しは今の気持ちが収まるのではないでしょうか?


では、見つからなかった時はどうしましょう?

「あの子は性格悪いし『女性として魅力がある』っていうステータス低いんだけど!特に努力してるようには見えないんだけど!」と思うかもしれませんね。

それは質問者さんからそう見えるだけなのかもしれませんが、その見立ては当たっていて、実際その子は特に努力をしていないのかもしれません。

 

だからそう見える時は、「そもそも人は平等ではない」という残酷な現実を受け入れなければならないでしょう。

 

羨ましいことに、世の中にはさほど努力や苦労をせず幸せな人生を送れる人がいます。いわゆる「恵まれている」人です。

ずるいですよね。ぼくもそういう人を見るとめちゃくちゃ嫉妬してしまいますが、それはもう受け入れるしかないのです。めちゃくちゃ悔しいけど、「そういう人もいる」と割り切るしかありません。

 

でも、だからと言って腐る必要はないんです。なぜなら、特別に恵まれているわけではないぼくたち「普通の人」にも逆転のチャンスは残されているからです。

先ほどステータスの話をしましたが、言うまでもなく、ステータスというのは「伸ばす」ことができます。

最初から高くなくても(=恵まれていなくても)問題ないのです。

 

質問者さんは「(大卒という)立派な肩書きがある」「お金持ち」というステータスを伸ばす道を選びました。なら、自信を持ってその道を突き進みましょう。

 

日本はいい意味でも悪い意味でもまだ学歴社会ですから、「大卒」という肩書きはけっこう強い武器になります。そしてその武器を使って医療系の職に就けば、「自分の力でたくさんお金を稼ぐ」というもっと強いステータスが手に入ります。

 

これらは、あなた特有の強みです。

あなたには「その子」の持つ強みはないかもしれませんが、「その子」にもあなたの持つ強みはやっぱりないんです。

 

しかも、考えようによっては質問者さんの方が有利かもしれません。

だって、「その子」はもしかしたらいつか結婚相手と別れてしまうかもしれないけど、質問者さんの肩書きや職はよほどのことがない限り無くならないからです。

 

問題は無事に結婚と出産ができるかどうかですが、それもきっと大丈夫でしょう。「医療系の仕事をしていてお金がある」というのは「結婚」という世界の中でも非常に強いステータスですし、今のぼくの話を聞いた質問者さんなら「他のステータス」も伸ばすことができるだろうからです。

 

つまり、質問者さんは堅実で確実な道を行っているのです。そういう道では結果が出るのはどうしても遅くなりますが、長期的に見れば、より安定して幸せな人生を送れる確率は高いと思います。

 

周りと比べる必要はありません。自分にないものではなくあるものを見つめ、焦らず自信を持って、自分の道を進んでいきましょう!

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

質問者さんからは後日、こんなリプライをいただきました。

 

「回答ありがとうございます。

納得のいく回答を得られたからって相手の子と普通に接することはできません。

ただ容姿がよかったから? そんなことで簡単に幸せが手に入るなら自分、親まで恨みますね。

それが自分の運命なのかもしれません……」

 

 

ぼくとしては「運命」なんて言ってしょげて欲しくはないのですが、これ以上は依頼の範囲を超えてしまうので残念ながら何も言えませんでした……。

 

簡単じゃないからこそ人生は面白いとぼくは思うんですけどね……そう思ってもらうのはなかなか難しいです……。

 

23歳童貞が風俗店に行って風俗嬢に指一本触れずに爆笑させて帰ってきた話

 

社会人1年目の5月、大量の初任給を手に入れたぼくは人生初の風俗店に行った。

 

エロいことをするためじゃなく、社会見学のためだった。

 

嘘じゃない。マジでガチで社会見学のためだけに行った。

ずっと前から風俗の世界に興味があり、働いている人と直接話をしてみたかったのだ。

 

「社会見学をしたいのが本当だとしても、エロいこともしたいんだろ?」

 

誰もがそう思うだろうが、それは明確に否定しておく。性的なことをするつもりは本当に一切なかった。

別に、女性に興味がないわけではない。ぼくはそういう欲求は普通に持っている。

 

じゃあなぜ風俗店に行くにもかかわらず、性的なことをするつもりがないのか?

それは、

 

「自分の初体験は彼女に捧げる」と決めていたからだ。

 

そう、ぼくはこれまで1度も性行為をしたことがなければ彼女ができたことすらない、

23歳にもなって、女の子に指一本触れたことがない純度100%童貞なのだ。

 

なぜこんなことになっているのか、本当に分からない。ぼくには確かに変わったところがたくさんあるけど、普通に社会生活を送り多くの人と良好な人間関係を築いてきた人間だ。

延々と話せるぐらい仲の良い女の子友達だって7人もいる。なのになぜ彼女が1度もできたことがないのか、この世の最大の謎である。

 

さて、23年間も性体験がない男はどうなってしまうのか、想像がつくだろうか?

 

そう、童貞をこじらせてしまうのだ

 

23年間も取っておいたのだから、初めての体験は最高のものにしたい。心から愛し合う最高に素敵な彼女と、理想的な営みをしたい。

 

一心にそう願い続けてきたので、愛し合っていない風俗嬢と初体験を済ませるわけには絶対にいかなかったのだ。

 

以上の理由から、ぼくはどんなことがあっても風俗嬢には指一本触れないと固く心に決めていた。

 

 

 

めちゃくちゃ緊張しながら受付を済ませ案内された部屋で待っていると、

 

「はじめまして〜。アイです」

 

とにこやかに言いながら推定年齢24歳ぐらいの女性が入ってきた。

なんと銀髪である。ギャルっぽくてぼくのタイプではなかったが、すごく綺麗な女性だった。

 

ぼくは間髪入れずに言った。

 

「あの、ぼくは社会見学的な目的で来たので、何かするつもりは一切ありません! なので何もしないでください! お話だけでお願いします!」

 

ここで「はぁ?」と言われ引かれることを覚悟していたが、アイさんは意外にも、「そうなんだ〜。分かった!」とにこやかに言ってくれた。めちゃくちゃ話しやすそうないい人だな、とホッと胸をなでおろした。

 

それからこのお店に来た経緯などを話し始めたのだが、話しながらぼくはふと、視線を少し下に向けてみた。その動作に特にいやらしい目的はなく、どんな服を着てるのか確認したいぐらいのつもりだった。

 

しかしぼくは、ある一点に視線が釘付けになってしまった。

 

 

おっぱいである。

 

 

ほんの数十センチ目の前に、おっぱいがあるのである。もちろんキャミソールでしっかり隠れているのだが、それは今までのおっぱいとは全然違うことにぼくは気づいたのだ。

 

 

そう、これは、揉んでもいいおっぱいなのである。

 

 

ぼくはこの時初めて、世の中には2種類のおっぱいがあることに気が付いた。

 

 

揉んでもいいおっぱいと揉んではいけないおっぱいだ。

 

 

ぼくが今まで生で見てきたおっぱいは全て、揉んではいけないおっぱいだった。

 

触りたいという衝動があるのに絶対に触ってはいけない、触った瞬間に人生が終わる禁断のおっぱいだったのだ。

 

 

しかし、今目の前にあるおっぱいは違う。

ここは風俗店だ。8000円という大金を払ってこの店に入ったぼくには、対価を受け取る権利がある。今目の前にあるおっぱいは紛れもなく、揉んでもいいおっぱいなのだ。

 

「どうしたの?」

 

アイさんの問いかけに、ぼくはビクッと我を取り戻し、アイさんの顔に視線を戻した。

 

「すみません……。目の前にあるのが揉んでもいいおっぱいだと思ったら急に冷静じゃいられなくなってしまって……」

 

アイさんは声をあげて笑い、こう言った。

 

 

「揉む?」

 

 

 

 

揉む?????

 

 

ぼくは耳を疑った。生で生まれて初めて聞いた言葉だった。

 

今までは絶対に揉んではいけないものだったおっぱいを、女性が、しかもとびっきり綺麗な女性が、「揉む??」と笑顔でぼくに聞いてくれているのだ。そんなことがあっていいのだろうか?

 

この言葉により、目の前のおっぱいの「揉んでいい度」は格段に上がった。

 

さっきまでは単に「お金を払ったから揉む権利がある」程度だったが、今は違う。

アイさんはぼくの「何もする気はありません」宣言をしっかり聞いたのだ。それにも関わらずこう言ってくるということは、「お金のために嫌々揉ませている」わけではないということだ。

 

それでも、一応訊かなければならない。

 

「あ……あの、素朴な疑問なんですけど、嫌じゃないんですか……?」

 

「うーん、割り切ってるからね。なんとも思わないかな」

 

割り切ってる。すごいことだ。ぼくが今まで会ってきた女性はみんな自分の体をすごく大切にしていた。分別のつかないクソ男子に頭をポンポンされただけで嫌がっていた。お金をもらえるからといって、人間そんなに割り切れるものなのだろうか。

 

どうしようどうしよう。ぼくはアイさんのおっぱいを見つめながら、またしても重大なことに気づいた。

 

 

そうか、これは「揉んでもいいおっぱい」であると同時に、「見つめてもいいおっぱい」なんだ。

 

 

今まで出会ってきたおっぱいだったら、見つめ続けただけで変態の烙印を押されただろう。だけど今は違う。穴が空くほど見つめ続けててもなんとも思われないのだ。

 

ぼくはアイさんのおっぱいを見つめながら考えた。揉むべきか、揉まないべきか……。

 

 

ーもう、いいんじゃないか?

 

心の中で、悪魔の声がした。

 

ー何をためらうことがあるんだ。目の前に法的にも倫理的にも揉んでいいおっぱいがあるのに、揉まない男がどこにいる。

 

いや、だけど……。ぼくには鉄壁の理由があるんだ……!

 

ー初体験は彼女にって? そんなこと言い続けて、一体いつ彼女ができるんだよ? このままじゃお前、30になっても童貞だぞ。

 

でも……。

 

ーお前は今までよく頑張ったよ。人並みの欲求があるくせに23年間、セクハラやストーカーなどはもちろん、手スリスリや頭ポンポンすらせず、ここまでよく潔癖を貫いた。十分すぎるぐらい頑張ったんだから、もういいじゃないか。

  

そうか……。確かに我ながらよく頑張ったよな……。もう、いいか……。

 

そう思いアイさんのおっぱいへ手を伸ばしかけた時、さっきとは別の声がした。

 

 

 

「タカシ、初めてじゃないんだ」

 

 

 

それは、未来の彼女の声だった。

そう、ぼくが初体験を彼女に捧げることにこだわっているのには実はもうひとつ別の理由があった。

 

それは、ぼくの彼女ならきっと、2人の初夜が来る時までぼくが初体験を大切に取っておいたことを喜んでくれるだろうと思っていたことだ。

 

この「彼女」だが、実は具体的な人をイメージしていた。

 

当時ぼくは女優の志田未来が大好きでいつか絶対に彼女と付き合うと決めており、というか、脳内ではすでに付き合っていた。

志田未来がガッカリする姿が浮かんだ。

 

 

「タカシの初めては、私のために取っておいて欲しかったな」

 

 

未来の彼女というか彼女の未来が、そう溜め息をつくのが聞こえた。

 

そうだよね、未来。未来とのその時のために、このおっぱいは揉まないでおくよ。

 

ぼくは心の中でつぶやき、やはりおっぱいを揉まないことをアイさんに宣言した。

 

 

 

 

それからはタイマーが鳴るまでの間、どうしておっぱいを揉まないことにしたのか、志田未来と脳内でどう言う風に付き合っているのかなどをアイさんに話して聞かせた。

アイさんの反応はというと、爆笑だった。

 

「実はこの前1回別れたんですよ」

「え!?脳内なのに!?」

「はい。未来がキスしたいって言ってるのに、恥ずかしくてぼくが拒んじゃって……」

「ちょwww 待って、ヤバすぎwwww」

 

こんなやりとりをしながら、ぼくは懐かしい幸福感に包まれた。

レンタル話し相手のアカウントではまだそういうキャラを出していないが、ぼくは実はONE PIECEのサンジのような性格も持っていて、性や恋愛感情についてあけっぴろげに話すことをよくするのだ。

 

あまりにオープンにしすぎるために「気持ち悪い」と言われることもあるけど、なんでそんなことをするかというと、オープンにした方が平和だと思っているからだ。

 

人間なんてどうせエロいこととか変なこととかを考えてる生き物なんだから、それを下手に隠して溜め込むよりも、明るく発露した方が性欲や恋愛感情についてみんながプラスイメージを持てるようになるのではないかと考えている(もちろん、場や程度などについては本当によく考え見極めなければならないけど)。

 

しかし入ったばかりの会社でいきなりそんなキャラを出せるわけもなく、この数週間はずっとクソ真面目に振舞って窮屈な思いをしていた。

 

久しぶりに遠慮なくこういう話をして、お腹がよじれるほど人を笑わせている。

8000円も払って入った風俗店で一体ぼくは何をやっているんだろうとも思ったけど、ぼくにとっては性行為をするよりもずっと、気持ちのいい時間だった。

 

退出する時、アイさんは「マジで楽しかった!」とたぶん心から言ってくれた。今も元気でいてくれてるといいなと思う。

 

 

ちなみにこの約4ヶ月後に志田未来さんはぼくではない一般男性と結婚してしまった。なんという裏切りだ……。

 

今はもう異性として好きな人はいない。

彼女、募集中です。

 

 

【相談】親につけられたキラキラネームが嫌なのですが、改名したら家を追い出されるかもしれません→専門のNPOに相談しましょう。

 

  ナナさん(仮名,女子高生,東京)からの相談です。 

 

親からつけられた名前がすごく変なキラキラネームで、そのせいで虐められたりからかわれたり、ずっと嫌な思いをしてきました。

大学へは違う名前で入学したいので高校生の内に改名したいのですが、名前を変えるためには「改名する必要がある」と裁判所を納得させる材料を用意しないといけないらしくて……。
色々調べたんですけど、どんな材料をどれぐらい集めなければならないのかよく分かりません。

それと、親は基本的には優しいのですが、名前のことに関しては信じられないほど頑固で厳しくて……。

私がどれだけ泣いて訴えても「一生懸命考えてつけた名前なんだから」と言って改名を許してくれないので、もし勝手に改名したら家を追い出されるかもしれません。

泊めてくれる親戚もいないので、そのことも悩んでます。どうすればいいでしょうか?

 

自分の大切なアイデンティティである名前がすごく変なものであるというのは辛いでしょうね……。

いくら一生懸命つけた名前でも、子供がそれで本当に辛い目に遭っていると分かれば変えさせてあげるのが本当の愛情だと思います。
そんな大変な中、状況を変えるために自分で色々と調べ行動されていて偉いですね!

さて、ぼくからのアドバイスですが、専門的な知識や経験を持つ大人に相談した方がいいと思います。学校の先生など身近に頼れる人がいなければ、世間の大人に頼ってみましょう!

弁護士なんかはハードルが高いですが、たとえばNPO法人や国の公共機関なら相談するハードルは低いと思います。

 

たとえばどういうところがあるんでしょうか?

 

今一瞬調べてみただけですけど、たとえばこんなところがあります!  

www.npobunka.net



ぼくはこのNPO法人のことを全然知らないのでオススメできるわけではないですが、要は「こういう相談窓口が世の中にはあるよ」と知っておいて欲しいです!

あと、こんなwebサイトがありました!

me-x.jp

カテゴリや条件(家庭問題,電話で相談など) を打ち込めば、その条件に合わせた相談窓口の一覧を表示してくれるみたいです。ほとんど無料みたいですし、ここで色々と探してみるといいと思います!

 

へー!こんなのあるんですね。全然知らなかったです!

 

日本には意外とたくさんの救いの手があるので、困ったらとにかく検索してみることが大事です!

ところで、こういうところを実際に利用するにはけっこう勇気が要ると思うのですが、そこは大丈夫そうですか?

 

はい!私は勇気とか行動力とかはあるので、それは大丈夫です!

 

それなら良かったです!

じゃあここからは、頼れる職員が見つかってからの話をしますね!

職員の方には、改名するために必要な材料について教えてもらう他に、「親を説得する方法」を相談してみてください。

 

え……。私がどんな方法で説得しようとしても一切変わらない親なので、それは意味ないと思うんですけど……。

 

そうかもしれませんが、説得というものには本当に色々な技や方法があるので、もしかしたら親御さんに効く手があるかもしれません。

一番いいのは、職員の方に親御さんと直接話してもらうことだと思います。自分以外の人からの説得はかなりの効力を持つ場合があるので、できたらそれをお願いしてみてください。

 

分かりました。

 

どうしてこんなことを言うかというと、家族と縁を切ってしまうと、精神的にも経済的にも想像以上に大きな打撃になるだろうと思うからです。

ひどい虐待をされているといった場合なら別ですが、お話を伺っていると、親御さんは名前以外のことに関しては基本的に優しいし、ナナさんの方から積極的に縁を切りたいわけでもないのですよね。

であれば、もう本当に打つ手が一切ないと思えるギリギリまでは、家族と縁を切らないようにする努力をした方がいいと思います。特にナナさんはまだ高校生で、家族の支えなしで生きていくのは極めて困難なので。

 

やっぱり1人で生きていくのって難しいんですかね? 

 

難しいですよ! ぼくも最近生まれて初めて一人暮らしを始めましたが、かなり大変です。

とは言え家族に守られている状態ではその大変さを実感することは難しい筈なので、「親元を離れること」と「1人で生きていくのに必要なお金を稼ぐこと」を期間限定でしてみることをオススメします!

 

え、高校生の内にですか?

 

家を追い出されるかもしれないことを高校生の内にやろうとしているなら、今やった方がいいと思います。

本当の困難さは、経験してみなければ分かりません。
両方を体験してみてその大変さを実感したら、親御さんをどれぐらいギリギリまで説得するべきなのか、改名を本当に決行するべきなのか、より本気で考えられると思います。

 

分かりました。少し考えてから色々と試してみます。
ありがとうございました!

 

どうなるにせよこれから困難が待ち受けていると思いますが、応援しています。頑張ってください!

 

このナナさんからは後日、「親が急に改名を許してくれました!」と報告が来ました!
結局NPOなどには行かなかったようですが、よかったです!!

 

ぼくはなぜ誰からも認められなかったのか?

 

 

ぼくは並外れた論理的思考力を持っていると自負している。

 

ぼくの思う論理的思考力とは、

 

「筋道に則りながら延々と深く考え最善の答えを導いたり、複雑な事柄を分解し分かりやすく説明したりする能力」

 

のことだ。ぼくはこの能力に極めて長けている自信がある。

 

だが、ぼくのこの能力はこれまで、ほとんど誰にも認められてこなかった。

認めてくれた数少ない人たちに失礼になってしまうから「ほとんど」と言うけど、実感としては「全く」と言いたいぐらい、本当に誰からも認められてこなかった。

 

それがぼくは、本当に悔しかった。

 

ぼくには幸いにも、親しい人がたくさんいる。概ねみんなぼくのことを好いてくれているし、優しい人だとか面白い人だとかも、たぶん思ってくれているだろう。

それだけでも有難いということは分かっている。だけど、そうじゃないのだ。今のぼくはもう、それだけでは全く満足できないのだ。

 

優しい人とか面白い人とかじゃない。ぼくは、「すごい人」だと思われたいのだ。「頭いいんですね」と言われたいのだ。

 

尊敬されたい。偉くなりたい。人望が欲しい……。ずっとそう切望していた。

 

さて、今、ほとんどの人はこう思っているだろう。「どんだけ自信家で欲まみれなんだ。もっと謙虚に無欲に生きないとダメだろ」と。

 

だがぼくは、世間で広く信じられているその良識に異議を唱えたい。 自信や欲を持ったり、そのことを公言したりすることの一体何が問題なのかと。

 

「だって、自省できなくなったり、利己的になって他者を蔑ろにしたりするだろ」

 

こういう意見が出てきそうだが、果たして本当にそうだろうか?

 

「自信を持つこと」と「自省すること」は全く別の概念だ。自信が無い上に自省もできない人がいるように、自信を持ちつつ自省することは普通にできるのではないだろうか?

偉くなりたいなどという欲求があるのは人間として自然なことだ。他者を損ねることなく自身の欲求を満たすようにすれば何の問題もないのではないか?

また、自信や欲を公言することによって、信頼を得たり世の中の間違った認識を改めることができるのではないだろうか。自信のない歯科医に自分の歯を抜いてもらいたいと思う人がいるだろうか?

 

以上のような思考から、ぼくは基本的に、誇るべき能力を謙遜したり満たしたい欲求を隠したりしないと決めている。理解してもらえると幸いだ。

 

ちなみに、これがまさに「論理的思考力」である。

 

(話の流れから自然に自分の論理的思考力を証明するという離れ業である)

 

ぼくはこのように自分の考えを語るのが好きで、そうすることが許されているあらゆる場で今のような話をしてきた。

 

自分の筋道だったロジックにみんな感心してくれるに違いないとぼくは思っていたが、実際はどういうわけか、全くそうならなかった。

 

核心を突いたことを話しているつもりなのに、誰もその言葉に価値を見出してくれないのだ。めんどくさいことを言ってるなと煙たがられたり、バカなことを言っていると否定されたりしてばかりだった。

 

言いたいことが山ほどあるのに、自分の言葉が誰にも届かない。

 

この悔しさや虚しさが分かるだろうか?

この6年間ぼくはずっと、そんな堪え難い孤独の中にいた。

 

さて、なぜそんな状態が続いたのだろうか。

論理的思考力に長けていると思っているのは自分だけで、本当はバカだったからだろうか?

 

それは違うとぼくは思う。

 

 

この記事で書いた、「本当は高いポテンシャルを持っているにも関わらず不当な評価を受けている場合」に該当していたからぼくは認められなかったのだ。

 

では具体的にどういう理由で不当な評価を受けてきたのか? 長い間一人で考えてきたその分析結果を今ここで発表しようと思う。

 

なぜ今かというと、ぼくはおそらく今日(予定よりだいぶ遅くなってしまったが)、上記のブログで宣言した「フォロワー1000人」を達成し、大勢の人から注目される人になるだろうからだ。

そして1ヶ月も経つ頃には、ぼくの論理的思考力を多くの人が認めてくれるようになるだろうからだ。

 

この分析結果は認められてしまう前に言う方がずっと面白いので、今発表する。

 

 

なぜぼくは認められなかったのか?

 

①ズレていたから

 

「ズレ」というのは何も悪いものばかりではない。ここで言う「ズレ」は、良いものの方だ。

 

ぼくの主張には逆説的なものが多く、「みんなこう考えてるけど、本当はこうじゃない?」ということをよく言う。

 

これは何故か? ドラゴン桜の外伝である『エンゼルバンク』という漫画が分かりやすく説明しているので紹介しよう。

 

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こういうわけで、成功者は必然的に世の中の多数派とは真逆の考えを持つことになる(もちろん、王道を行き成功する人もいる)。

これは数多の成功者を調べていけば自明なこの世の真理であり、「誰にも理解されない時期がある」というのは、昔も今も成功者の宿命なのだ。

 

だがぼくは、逆説的ではないことを言うこともたくさんあった。

それでも認められることがなかったのには、2つ目の理由が関係している。

 

②ナメられていたから

 

これがぼくは大きかった。ぼくはこれまで本当にナメられまくっていた。

 

その原因はいくつかある。

 

・見た目も喋り方も子供っぽい上にボケまくるから。

ぼくは身長が161cmしかないし、高い声で子供っぽい喋り方をしてしまう。たぶん何を話しても、まるで小さいヒナ鳥がピーチクパーチク言ってるようにしか聞こえないのだろう。

また、息をするように常にボケてしまう(自制できない)という厄介な性質もある。

「頭いいのにボケてるギャップが素敵」と思われているのだと思っていたのだが、単に「バカがバカをやってる」と思われているだけだったようで、ナメられる原因になっている。

 

・バカな部分は本当にバカだから。

論理的思考力に長けすぎていることによる副作用なのか、ぼくには驚くほどバカな部分が多くある。もうこれは仕方ないと半分諦めている。

 

・変態っぽいから。

レンタル話し相手のアカウントではまだそういうキャラを出していないが、ぼくは実はONE PIECEのサンジのような性格も持っていて、性や恋愛感情についてあけっぴろげに話すことをよくするのだ。

本当に引かれないように気をつけてはいるが、仲間内ではけっこうな変態キャラになってしまっている(なぜサンジっぽく振る舞うのかにはちゃんと哲学があるのだけど、ここでは割愛する)。

 

そんなこんなでぼくには何重ものマイナスイメージがついており、そのため、頭の良いことを言っても「どうせバカが(変態が)言ってることなんだから……」というバイアスが働いてしまって相手にされないのだろうと思う。

 

ここで多くの人は、「都合よく考えすぎでしょ。バイアスがかかってるんじゃなくて本当にバカなだけなんじゃないの?」と思うだろう。

だが、おそらくそうではないという根拠がある。

 

冒頭で「『ほとんど』誰にも認められてこなかった」と言ったが、ぼくの思考力を認めてくれた数少ない人のことを考えてみると、ある共通点が見つかった。

ほとんどみんな、ぼくが賢そうに振る舞うコミュニティで出会った人たちなのだ。

 

たとえばアルバイト先の個別指導塾の生徒がそうだった。講師として働いている塾ではぼくは普段よりずっと真面目に大人っぽく振る舞うし、ボケることも少ない。そのため生徒には、「この人バカなんじゃないか?」というバイアスが働いていないのだ。

 

ぼくの能力は、ある時突然証明された。

2回目の授業の時、ぼくがとあるロジカルな話をしていたら、生徒がなんとこう言ったのだ。

 

「メモっていいですか?」

 

これはとてつもない衝撃だった。

それまで誰もぼくの言葉に価値を見出さなかったのに、その生徒は真剣に聴いてくれたどころか、カバンからわざわざノートを取り出してぼくの言葉をメモしてくれたのである。

 

振る舞い方や立場が違うだけで、言葉の捉えられ方というのはこんなにも違うものかと思った。

(ちなみに帰ってから母にこの話をしたら、「アンタなんかの話に感銘受けるなんて、その生徒おかしいんじゃないの?」と笑われた)

 

他にも、頭のいい人たちが集まるイベントで出会った人やレンタル話し相手の依頼人など、ぼくの普段のボケキャラや変態キャラを知らない人たちは大抵、驚くほど熱心にぼくの話を聴いてくれた。

 

これらの経験から、ぼくはこういう結論を導いた。

 

人は「『何を』言っているか」よりも「『誰が』言っているか」を遥かに重視する生き物なのだ

 

と。

 

バカなイメージがある人がどんなに頭の良いことを言っても相手にされないし、人気者がそれっぽいことを言えば、たとえそれがペラペラな言葉でも「深いですね!」となるということである。

 

(ちなみに「変態っぽさ」も、成功した人が出す分には「ギャップがステキ」となる)

 

理不尽極まりないし全くもって納得できないが、悔しいことにこれが現実らしい。

ならどうすればいいのか? 答えは1つだ。

 

偉くなればいいのである。

 

何でもいいから圧倒的な成功を収めて偉くなればいい。そうすれば、誰もぼくをナメなくなる。ぼくの言葉をちゃんと聴いてくれる。今まで軽くあしらわれてきた話と同じ話をしても、今度は重く受け止めてくれる。

 

今ぼくがやるべきことは語ることではない。とにかく成功することだ。自分の人生に勝つことだ。100の言葉ではなく1つの成果が人を黙らせる。

 

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『賭博黙示録 カイジ』より

 

そう気づいたから、ぼくは喋ることをやめた。この2年近く、ぼくは家族にも友達にも自分の考えを語ることをやめ、ひたすら成功それのみを目指してきた。そしてとうとう、あと一歩でそれを掴めるところまできた。

 

ここからぼくは、成功の階段を爆速で駆け上がっていく。破竹の勢いで有名になっていく。

ぼくの頭の良さを分かっていなかった人は仰天するだろう。「なんであいつが!?何かの間違いじゃないのか!?」と。

 

しかし、何の間違いでもない。ぼくは実力で成り上がる。間違っていたのは自分たちの認識だったと、みんなどこかで気がつくことになるだろう。

 

その時はどうか、土下座でもしながら謝ってほしい。

「お見それしましたァ!あなたがバカだと思っていた我々がバカでしたァァ!!!」と。

 

ぼくはそれを笑って許そうと思う。

 

「いいんだよ。ただ、これに懲りたら、もう誰に対してもバイアスはかけないでほしい。誰が言うかに限らず、その言葉そのものを正しく評価できる人になってほしい。ぼくも全ての人に対してそうするよう心がけるから」

 

と。

 

マジでお願いします、土下座。そうしないとぼくのこれまでの怨念が浮かばれないので。本当に。