「我々が勝ち取りたいのは自由である」 戦う者たちの戯曲『僕たちの好きだった革命』
読んだだけで思わず革命をしたくなってしまうアツい戯曲、『僕たちの好きだった革命』を紹介したい。
出版社:晩成書房
著者:鴻上尚史氏
※ネタバレがあるのでそれでも良いという人だけ読んでほしい。
このクラスはどんなことを戦っているんだ?
現代の高校のとあるクラスで、担任の先生が新しいクラスメイトとして40代のおっさんである「山崎」を紹介する。
彼は30年前の学生運動で激しく活動していた最中、機動隊のガス銃に撃たれ、つい先日まで意識不明のまま眠っていたのだった。
復学早々、山崎はクラスメイトに向かってこんなセリフを連発する。
「このクラスは今、どんなことを戦っているんだ?」
「君はクラス委員なのに、世界に対する意見がないのか?」
「彼女は沈黙することで服装検査に抗議しているんだ。思想統制と表裏一体となった服装検査への抗議として、不服従を貫いているんだ!」
みんな「はあ?」となって誰も相手にしないのだが、ある時、山崎の言葉が響くことになる事件が起きる。
文化祭で山崎のいるクラスはとあるラップミュージシャンを呼ぶ予定だったのだが、そのミュージシャンの歌詞が問題でCDが発売禁止になっていることを知った学校側が、彼を文化祭に呼ぶことを禁止したのだ。
「自主的な文化祭を勝ち取ろう」という山崎の呼びかけに数人の生徒が応じたのをきっかけに、この学校での革命闘争が始まったのだった。
思考停止の教師と諦めない山崎
初めは小さい輪だったのがだんだん大きくなっていき、文化祭に加藤鷹を呼びたいという生徒が出てきたり、例のラップミュージシャンが駆けつけてくれたりし、ものすごい勢いで革命の熱が高まっていく。
教師達は必死に反対するのだが、説得力が微塵もない。
グラウンドで「第一回自主運営文化祭要求集会」をやっている時のシーンが特に滑稽である。
「お前ら全員退学だ!」
「どうしてグラウンドにいるだけで退学なんですか!」
「グラウンドにいるから退学なんだ!」
「意味分かんない!」
「人生に意味なんてないの!」
思わず「アホ過ぎるだろ」と呆れてしまうが、このレベルの無思考で生徒を縛っている教師は実際にたくさんいるだろう。
ある時ついに教師側は強硬な手段を取り、山崎たちを体育館に閉じ込めてしまう。
それでも諦めず革命の準備を進める山崎に、「どうしてそんなに頑張るの?」と仲間が問いかけるシーンが最高だ。
「どうして? 理解できない」
「きっといい未来になるって信じてるからさ」
「ほんとにいい未来になる?」
「(その質問に驚いたように)勝ち取るんだよ」
なぜ戦うのか
「たかが高校の文化祭のためにそこまでやらなくても」と思うかもしれない。だが山崎たちは、もっと大きなものの為に戦っているのだ。
あるとき山崎はこんなアジテーションをする。
「諸君! 我々が実現しようと思い、勝ち取ろうとしているのは、単なる文化祭ではない! それは我々の自由であり、未来である。一体我々は、不合理な現実をただ一度でも自らの手で変革し得たことがあったのか! 我々が真に問題とするのは文化祭の検閲制度だけではなく、我々にとって真の文化とは何かということなのだ!!」
いま話題になっている、生徒の髪色問題も同じだろう。
「髪を規制されるぐらい大したことないじゃん」と思う人もいるかもしれないが、問題は「茶髪を黒髪にさせられる」ことではなく、「無意味で理不尽な決まりを押し付けられる」ことなのだ。
そして大事なのはオシャレをすることではなく、自らの手で自由を勝ち取ることなのだ。
関心があるなら戦おう
この『僕たちの好きだった革命』を書いた鴻上尚史さんはTwitterで、今回の「無意味な校則問題」に猛烈に怒り、意見を発信している。あなたもこの問題に関心があるなら、臆さず声をあげてみよう。
別に反対意見だっていい。山崎も「生徒のみんなも、機動隊員のみんなも、自分がいいと思うことを信じて欲しい」と言っている。
思考停止のまま自分の考えを信じるのは危険だが、本当にそれが「自分がいいと思うこと」なのであれば、諦めずに信じて堂々と主張すればいいのだ。
山崎はこうも言っている。
「試行錯誤を続けながら、人間はきっと進歩するんだ」
互いが信じることをぶつけ合うことで、本当の正しさがきっと見えてくる筈だ。