23歳童貞が風俗店に行って風俗嬢に指一本触れずに爆笑させて帰ってきた話

 

社会人1年目の5月、大量の初任給を手に入れたぼくは人生初の風俗店に行った。

 

エロいことをするためじゃなく、社会見学のためだった。

 

嘘じゃない。マジでガチで社会見学のためだけに行った。

ずっと前から風俗の世界に興味があり、働いている人と直接話をしてみたかったのだ。

 

「社会見学をしたいのが本当だとしても、エロいこともしたいんだろ?」

 

誰もがそう思うだろうが、それは明確に否定しておく。性的なことをするつもりは本当に一切なかった。

別に、女性に興味がないわけではない。ぼくはそういう欲求は普通に持っている。

 

じゃあなぜ風俗店に行くにもかかわらず、性的なことをするつもりがないのか?

それは、

 

「自分の初体験は彼女に捧げる」と決めていたからだ。

 

そう、ぼくはこれまで1度も性行為をしたことがなければ彼女ができたことすらない、

23歳にもなって、女の子に指一本触れたことがない純度100%童貞なのだ。

 

なぜこんなことになっているのか、本当に分からない。ぼくには確かに変わったところがたくさんあるけど、普通に社会生活を送り多くの人と良好な人間関係を築いてきた人間だ。

延々と話せるぐらい仲の良い女の子友達だって7人もいる。なのになぜ彼女が1度もできたことがないのか、この世の最大の謎である。

 

さて、23年間も性体験がない男はどうなってしまうのか、想像がつくだろうか?

 

そう、童貞をこじらせてしまうのだ

 

23年間も取っておいたのだから、初めての体験は最高のものにしたい。心から愛し合う最高に素敵な彼女と、理想的な営みをしたい。

 

一心にそう願い続けてきたので、愛し合っていない風俗嬢と初体験を済ませるわけには絶対にいかなかったのだ。

 

以上の理由から、ぼくはどんなことがあっても風俗嬢には指一本触れないと固く心に決めていた。

 

 

 

めちゃくちゃ緊張しながら受付を済ませ案内された部屋で待っていると、

 

「はじめまして〜。アイです」

 

とにこやかに言いながら推定年齢24歳ぐらいの女性が入ってきた。

なんと銀髪である。ギャルっぽくてぼくのタイプではなかったが、すごく綺麗な女性だった。

 

ぼくは間髪入れずに言った。

 

「あの、ぼくは社会見学的な目的で来たので、何かするつもりは一切ありません! なので何もしないでください! お話だけでお願いします!」

 

ここで「はぁ?」と言われ引かれることを覚悟していたが、アイさんは意外にも、「そうなんだ〜。分かった!」とにこやかに言ってくれた。めちゃくちゃ話しやすそうないい人だな、とホッと胸をなでおろした。

 

それからこのお店に来た経緯などを話し始めたのだが、話しながらぼくはふと、視線を少し下に向けてみた。その動作に特にいやらしい目的はなく、どんな服を着てるのか確認したいぐらいのつもりだった。

 

しかしぼくは、ある一点に視線が釘付けになってしまった。

 

 

おっぱいである。

 

 

ほんの数十センチ目の前に、おっぱいがあるのである。もちろんキャミソールでしっかり隠れているのだが、それは今までのおっぱいとは全然違うことにぼくは気づいたのだ。

 

 

そう、これは、揉んでもいいおっぱいなのである。

 

 

ぼくはこの時初めて、世の中には2種類のおっぱいがあることに気が付いた。

 

 

揉んでもいいおっぱいと揉んではいけないおっぱいだ。

 

 

ぼくが今まで生で見てきたおっぱいは全て、揉んではいけないおっぱいだった。

 

触りたいという衝動があるのに絶対に触ってはいけない、触った瞬間に人生が終わる禁断のおっぱいだったのだ。

 

 

しかし、今目の前にあるおっぱいは違う。

ここは風俗店だ。8000円という大金を払ってこの店に入ったぼくには、対価を受け取る権利がある。今目の前にあるおっぱいは紛れもなく、揉んでもいいおっぱいなのだ。

 

「どうしたの?」

 

アイさんの問いかけに、ぼくはビクッと我を取り戻し、アイさんの顔に視線を戻した。

 

「すみません……。目の前にあるのが揉んでもいいおっぱいだと思ったら急に冷静じゃいられなくなってしまって……」

 

アイさんは声をあげて笑い、こう言った。

 

 

「揉む?」

 

 

 

 

揉む?????

 

 

ぼくは耳を疑った。生で生まれて初めて聞いた言葉だった。

 

今までは絶対に揉んではいけないものだったおっぱいを、女性が、しかもとびっきり綺麗な女性が、「揉む??」と笑顔でぼくに聞いてくれているのだ。そんなことがあっていいのだろうか?

 

この言葉により、目の前のおっぱいの「揉んでいい度」は格段に上がった。

 

さっきまでは単に「お金を払ったから揉む権利がある」程度だったが、今は違う。

アイさんはぼくの「何もする気はありません」宣言をしっかり聞いたのだ。それにも関わらずこう言ってくるということは、「お金のために嫌々揉ませている」わけではないということだ。

 

それでも、一応訊かなければならない。

 

「あ……あの、素朴な疑問なんですけど、嫌じゃないんですか……?」

 

「うーん、割り切ってるからね。なんとも思わないかな」

 

割り切ってる。すごいことだ。ぼくが今まで会ってきた女性はみんな自分の体をすごく大切にしていた。分別のつかないクソ男子に頭をポンポンされただけで嫌がっていた。お金をもらえるからといって、人間そんなに割り切れるものなのだろうか。

 

どうしようどうしよう。ぼくはアイさんのおっぱいを見つめながら、またしても重大なことに気づいた。

 

 

そうか、これは「揉んでもいいおっぱい」であると同時に、「見つめてもいいおっぱい」なんだ。

 

 

今まで出会ってきたおっぱいだったら、見つめ続けただけで変態の烙印を押されただろう。だけど今は違う。穴が空くほど見つめ続けててもなんとも思われないのだ。

 

ぼくはアイさんのおっぱいを見つめながら考えた。揉むべきか、揉まないべきか……。

 

 

ーもう、いいんじゃないか?

 

心の中で、悪魔の声がした。

 

ー何をためらうことがあるんだ。目の前に法的にも倫理的にも揉んでいいおっぱいがあるのに、揉まない男がどこにいる。

 

いや、だけど……。ぼくには鉄壁の理由があるんだ……!

 

ー初体験は彼女にって? そんなこと言い続けて、一体いつ彼女ができるんだよ? このままじゃお前、30になっても童貞だぞ。

 

でも……。

 

ーお前は今までよく頑張ったよ。人並みの欲求があるくせに23年間、セクハラやストーカーなどはもちろん、手スリスリや頭ポンポンすらせず、ここまでよく潔癖を貫いた。十分すぎるぐらい頑張ったんだから、もういいじゃないか。

  

そうか……。確かに我ながらよく頑張ったよな……。もう、いいか……。

 

そう思いアイさんのおっぱいへ手を伸ばしかけた時、さっきとは別の声がした。

 

 

 

「タカシ、初めてじゃないんだ」

 

 

 

それは、未来の彼女の声だった。

そう、ぼくが初体験を彼女に捧げることにこだわっているのには実はもうひとつ別の理由があった。

 

それは、ぼくの彼女ならきっと、2人の初夜が来る時までぼくが初体験を大切に取っておいたことを喜んでくれるだろうと思っていたことだ。

 

この「彼女」だが、実は具体的な人をイメージしていた。

 

当時ぼくは女優の志田未来が大好きでいつか絶対に彼女と付き合うと決めており、というか、脳内ではすでに付き合っていた。

志田未来がガッカリする姿が浮かんだ。

 

 

「タカシの初めては、私のために取っておいて欲しかったな」

 

 

未来の彼女というか彼女の未来が、そう溜め息をつくのが聞こえた。

 

そうだよね、未来。未来とのその時のために、このおっぱいは揉まないでおくよ。

 

ぼくは心の中でつぶやき、やはりおっぱいを揉まないことをアイさんに宣言した。

 

 

 

 

それからはタイマーが鳴るまでの間、どうしておっぱいを揉まないことにしたのか、志田未来と脳内でどう言う風に付き合っているのかなどをアイさんに話して聞かせた。

アイさんの反応はというと、爆笑だった。

 

「実はこの前1回別れたんですよ」

「え!?脳内なのに!?」

「はい。未来がキスしたいって言ってるのに、恥ずかしくてぼくが拒んじゃって……」

「ちょwww 待って、ヤバすぎwwww」

 

こんなやりとりをしながら、ぼくは懐かしい幸福感に包まれた。

レンタル話し相手のアカウントではまだそういうキャラを出していないが、ぼくは実はONE PIECEのサンジのような性格も持っていて、性や恋愛感情についてあけっぴろげに話すことをよくするのだ。

 

あまりにオープンにしすぎるために「気持ち悪い」と言われることもあるけど、なんでそんなことをするかというと、オープンにした方が平和だと思っているからだ。

 

人間なんてどうせエロいこととか変なこととかを考えてる生き物なんだから、それを下手に隠して溜め込むよりも、明るく発露した方が性欲や恋愛感情についてみんながプラスイメージを持てるようになるのではないかと考えている(もちろん、場や程度などについては本当によく考え見極めなければならないけど)。

 

しかし入ったばかりの会社でいきなりそんなキャラを出せるわけもなく、この数週間はずっとクソ真面目に振舞って窮屈な思いをしていた。

 

久しぶりに遠慮なくこういう話をして、お腹がよじれるほど人を笑わせている。

8000円も払って入った風俗店で一体ぼくは何をやっているんだろうとも思ったけど、ぼくにとっては性行為をするよりもずっと、気持ちのいい時間だった。

 

退出する時、アイさんは「マジで楽しかった!」とたぶん心から言ってくれた。今も元気でいてくれてるといいなと思う。

 

 

ちなみにこの約4ヶ月後に志田未来さんはぼくではない一般男性と結婚してしまった。なんという裏切りだ……。

 

今はもう異性として好きな人はいない。

彼女、募集中です。